導入企業インタビュー

やるか、やらないか。
紙とデジタルの融合で
印刷業の枠を超えていく。

昭和印刷株式会社
代表取締役 田村 耕作

昭和印刷株式会社は1957年(昭和32年)に創業した老舗の印刷会社だ。斜陽産業と呼ばれて久しい印刷業界で、いち早くDX化に取り組み、飛躍的に売上を伸ばしている。紙とデジタルを融合させたさまざまな取り組みは業界外からも注目を集め、令和6年度 東京都経営革新優秀賞※1において最優秀賞も受賞した。印刷業の枠を超えた数々の取り組みはどのようにスタートし、どのような想いで事業を拡大していったのだろうか。代表取締役の田村耕作氏と安田雅俊氏にお話をうかがった。

※1経営革新計画に基づき経営の向上を果たされた企業に与えられる表彰

  • お話を聞いた方

    昭和印刷株式会社
    代表取締役 田村 耕作 氏

  • 田村 耕作
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DX化のポイント

  • 紙とデジタルを融合させた多彩な事業展開
  • ものづくり補助金を活用した設備投資で受注を拡大
  • 内製化も図って10年間で売上高は約3.2倍に成長

斜陽化する印刷業界、
起死回生を図ったデータ封入封かん事業

同社がDX導入を決意した背景には、印刷業の衰退があった。1990年代から印刷業界にはデジタル化の波が押し寄せ、それまでアナログな業務で業界を支えていた町工場が次々と姿を消していった。手書き伝票の下請け業務を行なっていた同社にとっても他人事ではなく、朝出社しても仕事がないという日々が続いていた。1998年に中途入社していた田村氏も「このままでは会社が潰れてしまうかもしれない」という危機感を抱いていた。転機になったのは、2008年頃のこと。コンビニのレジでバーコード付きの納付書で介護保険料の支払いをする方を見かけたのだ。このバーコードのようなデータ印字を活用すれば、封筒や帳票の作成だけではなく、封入から発送まで一括して請け負えるかもしれない。そのアイデアに印刷需要の新たな可能性を見た田村氏は、封入封かん機を自費で購入し、データ印字封入封かん事業を始める。データ印字封入封かん事業とは、平版を使って印刷するオフセット印刷で作成した保険料の納付書や通知書、封筒などに印字プログラムで作成したコードを印字し、自動で封入・封かんして相手方に発送するというものだ。さらに取引先に安心して仕事を発注してもらえるようにプライバシーマークを取得。個人情報を扱う企業に必要な社内体制も整備した。
「私たちが目指したのは紙とデジタルの融合です。最初はこんな小さな町工場にできるわけがないと言われたこともありましたが、会社の将来のためにどうしてもやり遂げなければならなかった。試行錯誤の連続でしたが、勉強会などにも参加して、データ印字のノウハウを少しずつ学んでいきました。最後まで見捨てないでいてくれた江戸川区の皆さんには本当に感謝しています」(田村氏)。

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補助金を活用した設備投資、
顧客の信頼を勝ち取って受注を拡大

田村氏がもっとも時間をかけて取り組んだのは、これまで誰もやっていなかったデータ印字の技術を社内に浸透させることだった。データ印字は常に100%の精度が求められるため社員のプレッシャーも大きかった。実際にミスが起きてしまい、取引先から閉め出されてしまったこともあったという。そこで田村氏は「ものづくり補助金」を活用して自動検査装置を導入。これまで目視で行っていた検査を自動化したことでミスはゼロになり、作業速度も倍以上早くなった。また、設備投資の一環として社内のセキュリティ体制を再構築。大企業に匹敵する万全のセキュリティ体制を整えたことで、国内最大規模を誇る大手健康保険組合との直接取引も実現した。さらに、外部の業者に委託していたシステムの運用を内製化するためにSE※2を採用。急なシステムの変更や新規事業の開発も迅速に行えるようにした。営業部長の安田氏はいう。
「内製化することで会社のスキルアップに繋がっている部分もあると思います。それが会社の財産にもなっていますし、お客様の信頼にも繋がっています。田村が営業も実務も両方できるのも大きいんです。お客様のニーズと社内の制作チームができることを知り尽くしているので、次に取るべき行動をすぐに決断することができる。そのスピードが明らかに早いのも成功に繋がっていると思いますね」。

※2 システムエンジニア

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田村社長(左)と営業部長の安田雅俊 氏

新規事業を次々
30年間で売上高が約3.2倍に

データ印字封入封かん事業の成功をきっかけに、同社はさまざまな事業を立ち上げていく。2021年には発送先を自動で仕分けする「PC連携型仕分け発送事業」、2022年にはデータ印字技術と仕分け発送業務を融合させた「ワンストップ型バリアブル発送サービス」、2023年には「健康診断オールインワンシステム」を開発し、健康診断結果を発送するための全業務を請け負うようにした。

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2024年には、破れないフィルムを用いて作成し発送する「重要書類圧着はがき」を開発。このフィルム圧着ハガキは特許出願中だ。そして現在は、江戸川区浴場組合と連携して、NFC(近距離無線通信)とGPS機能を活用したスタンプラリーの開発に挑戦している。紙とデジタルを融合させた独自のDX化を実現させたことで、2012年から2022年までの10年間で同社の売上高は約3.2倍に。コロナ禍の影響を受けることもなく右肩上がりの成長を遂げている。こうした先進的な取り組みが東京都から高く評価され、東京都経営革新優秀賞において最優秀賞を受賞した。

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今後は、さらに特許の取得にも注力していきたいと語る田村氏にDX化を成功させる秘訣を聞いた。
「本気でDX化に取り組むのであれば、企業や行政と一緒に作り上げていくのがいいんじゃないでしょうか。自分たちの力だけではできることが限られていますからね。でも結局、やるかやらないかの違いだと思います。まずはやってみてダメだったら引けばいいんです。大事なのは、転んだときに立ち上がって、もう一度同じところで転ばないようにすること。大変なこともありますけど、自分がやらないと社員も家族も食べさせていけない。経営者がそれを考えないでどうするんですか。やるか、やらないか。それだけですよ」。

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「ものづくり補助金」で設備投資した印字検査カメラ付紙折り機

取材先企業からのアドバイス

まずは、今の事業の形が本当にこの先のお客様のニーズときちんとかみ合っているのかを考えてみてください。その中で、デジタルが必要であれば取り入れ、デジタル化したことで、ニーズに対応できないなら、アナログのままのものがあってもいいと思っています。お客様のニーズを満たすために、今、何をしなければいけないのか。そう考えていけば、結果として事業に付加価値がつく、改善すべきことが必然的に見えてくると思います。

企業情報
企業名 昭和印刷株式会社
本社 東京都江戸川区東小松川3-36-10
TEL: 03-3653-9256(代表)
代表者 代表取締役 田村 耕作
設立 1957年10月
資本金 10,000,000円
従業員数 19名
URL HP:https://showaprinting.co.jp/